〝星野リゾートを旅する〟 【その1】《 界 熱海 》

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     【星野リゾート  〝界 熱海〟  2017.7.16写真】

 

   この夏、7月16日〜17日の1泊2日で、星野リゾート 〝界 熱海〟に行ってきました。投稿が遅くなってしまいましたが、皆さんに紹介します。

 

   今回星野リゾートについて投稿するのは初めてですが、星野リゾートの利用は2回目になります。1回目は昨年12月24日、25日で、福島県磐梯山麓にあるスキー場〝アルツ磐梯〟に併設されるリゾートホテル〝磐梯山温泉ホテル〟です。神奈川にいる家族との旅行だったので、本当は熱海か伊豆、箱根あたりにある星野リゾートの施設を利用したかったんですが、予約が1か月ほど前だったこととクリスマスの日と重なったため、首都圏周辺にある星野リゾートのホテル・旅館は、全く予約が取れませんでした。そして予約できたのは首都圏からかなり離れた福島県磐梯山温泉ホテルでした。このときは到着も夜7時位になってしまったことと雪不足でアルツ磐梯のスキー場は使えず、翌日は早朝車で50分ほどのところにある猫魔スキー場まで移動し、昼までスキーをして三重まで戻ってくるという少しハードな行程となってしまいました。宿泊したホテルに併設されているスキーリゾート施設が休業ということで、1回目の星野リゾートを利用してのブログ投稿は諦めました。そのため今回の利用した〝界 熱海〟が初めての投稿になります。

 

   私が星野リゾートに強い関心を持つことになったのは、昨年発売された雑誌「週間ダイヤモンド」10月15号の特集『ニッポンリゾート』を見てからになります。それまで星野リゾートと星野佳路社長に関しては、「名前は聞いたことがある」という程度で、詳しくはほとんど知りませんでした。その特集記事の中で、リゾートに詳しい専門家やジャーナリスト21人が選ぶ〝「ニッポンのリゾート」総合&満足度ランキング30〟が掲載されていました。

 f:id:takeo1954:20170820054510j:image  【⬆︎週間ダイヤモンド 2016年10月15日号より】

 

   そしてそのランキングに驚きました。総合評価(スコア)1位は星野リゾート〝星のや軽井沢〟で、他ベスト10に星野リゾートの施設が4つ、ベスト30には9施設が入っていて、日本のリゾート施設としては他を圧倒しているのです。これには当然驚きました。このことは日本の観光業を語る上で、星野リゾートの理解は欠かせないということになるでしょう。それから星野リゾートと社長「星野佳路さん」のことを知るために関連の本を購入して勉強しました。そして今度は星野社長とその経営手法に驚きました。その驚きの内容はあとにして、まずは星野リゾート〝界 熱海〟について報告します。

   ただし最初にお断りしておきます。ブログ投稿の準備に着手してみて、改めて写真どりが不十分だったことに気がつきました。かなり写真を撮ったつもりでしたが、いざブログにまとめようとすると写真が不足しているのです。その要因の最大のものは、「私自身が旅そのものを十分楽しみすぎた」からです。特に対応してくれた女性スタッフの方の対応がすばらしく、話が盛り上がって楽しい時間を過ごしたため、ホテル・旅館のブログ紹介で最もメインとなる料理紹介のショットが少なかったり、宿泊した部屋の写真が全くないありさまなのです。楽しい旅のことをブログに紹介するといっても、そのために写真を撮ることがメインになってしまったら本末転倒です。写真が不十分ことは了解いただき、〝界  熱海〟を紹介させていただきます。

  

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   星野リゾート〝界  熱海〟は、1849年創業の日本を代表する和風旅館〝蓬莱〟を、2008年にその経営権を星野リゾートが引き継いで現在に至っています。星野リゾートに経営権が移ったと言っても旅館の建物などの施設、名女将をはじめ社員もそのまま残って今も続いています。

   それでは〝界 熱海〟の各施設からご案内します。

 

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  🔸玄関🔸

    玄関を開けると畳の間で、女将の季節の活け花が出しゃばることなく、さりげなく迎えてくれます。

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  🔸ロビー🔸

    このロビーでスタッフから館内各施設のこと、食事のでこと、イベントなどの説明を受けます。

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  🔸特徴ある施設の構造🔸

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    上の案内図で入口から部屋へ行くには、下の写真にある長い階段を降りていきます。口コミサイト〝トリップアドバイザー〟を見て、長い階段のことを多くの人が書いていたのを知っていたので、「あっ、これだ」という感じでした。

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  🔸客室🔸

   実際宿泊した部屋の写真は、後で撮ろう撮ろうと思っていて結局撮りそびれてしまいました。そのため実際泊まった部屋ではないのですが、星野リゾート〝界  熱海〟公式サイトの客室案内の写真からの写真です。部屋のレイアウトは異なりますが、間取りは同じです。もちろん全ての部屋のテラスが海側に面しています。

    ・1泊2食     1人    45,000円

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  🔸大浴場🔸

  ①古々比の瀧

   建築家 隅研吾氏デザインの全面露天風呂

     15:00〜24:00  男性専用

       6:00〜11:30  女性専用

   夕食前の18時ころ入浴する。そもそも旅館の部屋数は16室と少ないので、浴場はほとんど親子2人の占有状態でした。ただこの浴場、ジャバラの屋根がどうしてもチープな印象を受けててしまいました。

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  ②走り湯

   〝界 熱海〟に近くの同じ伊豆山に、日本三大古泉の一つ「走湯」があります(他の二つは道後温泉有馬温泉)1300年ほど前に発見されたと伝えられ横穴式源泉があります。山腹から湧き出た湯が、走るように流れ落ちるさまから「走湯」の名がついたと言われています。その由緒ある源泉名が近くにあることから名前がつけられていきます。

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              【↑写真  トリップアドバイザーより】

      15:00〜24:00    女性専用

        6:00〜11:30    男性専用

     朝食前の朝7時ころの入浴でしたが、このときもほとんど大浴場を占有状態でした。

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   🔸トラベルライブラリー🔸

    コーヒー、エスプレッソ、紅茶、ハーブティーとお菓子が用意してあり、自由に利用できる空間です。

        営業     8:00〜12:00

                 15:00〜24:00

  ※利用した時間は、他のお客様の利用があったので施設です全体の写真を撮ることができませんでした。

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   🔸別館  ヴァラ・デル・ソル🔸

   〝界  熱海〟には、「ヴィラ・デル・ソル」という洋風の別館があります。界 熱海が純和風なのに対して、ヴィラ・デル・ソルは部屋、食事など全て洋風で全く変わります。ちなみに冒頭で紹介した週間ダイヤモンドのプロが選ぶ「厳選ベストランキング102選」で、総合順位27位、満足度順位6位になった施設です。

   下の写真の建物は、元々江戸時代の紀州徳川家ゆかりの日本最初の西洋式個人図書館(南葵文庫)で、東京麻布飯倉にあったものが神奈川県大磯に移築され、1980年代の後半に界 熱海の前身〝蓬莱〟のときに蓬莱敷地内に移築されたものです。その移築復元の作業は6年の歳月と多額の費用(調達品も一つずつ選び抜いている)をかけています。建物は1階がロビーとサロン、バーがあり、写真を撮ったので紹介します。建物2階は別館 ヴィラ・デル・ソル宿泊客の専用レストランになっていて、写真を撮ることはできませんでした。

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   🔸 食事 🔸

      《 夕食 》

   何といっても旅先での夕食は旅行そのもののメインイベントといっていいでしょう。どんな食事の内容か、そしてスタッフさんはどんな対応をしてくれるのか、ワクワク、ドキドキというのが正直な気持ちです。そしてメインイベントの結果はパーフェクト、最高でした。具体的に何がパーフェクトだったのかというとスタッフさんの対応が素晴らしかったからです。単に食事の内容のことだけでなく、関連していろいろ質問したこと、例えば星野リゾートのこと、日本の観光業のこと、そしてスタッフさんの仕事への思いなどを、根掘り葉掘り聞いたのですが、それこそ誠意と熱意を持って対応していただき、そのためお酒もついついすすんでしまいました。そのスタッフさんのことは後ほど改めて紹介、コメントすることとし、とりあえず夕食の内容から紹介します。

   食事は部屋での食事になります。

⚫︎まずはお品書きからです

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⚫︎夕食の内容   

   ※野菜の天ぷら、デザートなど写真を撮れなったものもあります。

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    《 朝 食 》

    朝食も部屋での食事です。

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🔸空中湯上り処 青海テラス🔸
〝界 熱海〟で働くスタッフの企画によるイベントパフォーマンス。湯上り後相模湾を眺め眺めながら寛いでもらうスペースです。ただし16:00〜17:30と短い営業。チェックインが17時ころだったので,風呂も入らず慌ててここに直行する。

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 🔸 熱海芸妓の舞 🔸

       21:30〜22:00

   熱海芸妓さんによる舞とお座敷遊びの投扇興をお客様も参加して行います。ほぼ宿泊者全員が参加していたと思います。      

    ※私たちは食事が長引いてしまったので、夕食をいったん中断して参加しました。

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  ※実は〝熱海芸妓の舞〟の催しの直前には、別会場で熱海の花〝梅〟にちなんで、梅酒の飲み比べができる〝あたみ梅酒サロンが催されていたのですが、夕食の方が宴もたけなわで、参加することができませんでした。

 

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    旅行といっても最高級のホテルや旅館を利用する場合と格安ツアーで参加してホテル・旅館の食事をしたり、サービスを利用する場合とでは、当然スタッフに求めるサービスの質は異なります。星野リゾートは良質のサービスを提供することでお客様の満足度を高め、利用してもらうことを狙っていて、料金設定も全体に高めになっています。そして更に星野リゾート「5つの旅」として5つのパターンの施設とサービスを用意しています。その5つの施設とは

①星のや

 ・圧倒的非日常感に包まれる、日本発のラグジュアリーホテル

 ・日常から離れて過ごす時間を満たす、最も上質な滞在空間。一歩足を踏み入れた時から、訪れた地ならではの「星のや」が、テーマを色濃く展開し、独特の世界観が広がります。おもてなしの心に満たされた非日常空間での滞在は、なににも勝る安らぎです。

②リゾナー

 ・洗練されたデザインと豊富なアクティビティをそなえる西洋型リゾート

 ・スタイリッシュなデザインが心を捉えるリゾートホテル。高原の空気感、海原の開放感、夜空の宇宙感、大自然を思う存分享受するアクティビティプログラムは旅の思い出をつくり出します。

③界

 ・地域の魅力を再発見、心地よい和にこだわった上質な温泉旅館

 ・火山立国日本が育んだ温泉文化を現在的にアレンジした進化する日本旅館。四季を映し、和の趣を大切にしながら創り出す快適な空間は、現在の生活に合った心地よさを持ちます。和食の「日本旅会席」は、ご当地の魅力に出会う瞬間です。

④そのほかの個性的な宿泊施設

 ・日本や世界に展開する個性際立つリゾートホテルと温泉旅館

 ・世界各地や日本列島の北から南まで個性が際立つホテルと温泉旅館。その地域らしさを色濃く反映し、料理の妙、遊びのバラエティ、人々との出会い、どれもが日本再発見の驚きに満ちています。

⑤日帰り施設

 ・温泉からスキーまで、一日の休日を満喫する多様なサービス

 ・日本各地の施設でご利用いただけるデイユース可能な施設とサービスです。気軽に湯浴みを楽しむ温泉や、ご当地でしか味わえない逸品を揃えたレストランのほか、エコツアー、スキー、そしてゴルフなど多彩な休日ガイドが叶います。

 ※以上各施設の説明は星野リゾートが発行しているガイドを参照する。

 

  この5ツアーの施設では「星のや」が最も高く、2人1泊2食で1人当たり料金は7万円程度から部屋によっては10万円以上になります。ただし個数限定の早期予約割引もあるようです。そして私が今回宿泊した「界  熱海」は1泊2食で1人当たり4万5千円です。部屋の間取りでそれ以上の料金のものももちろんあります。ちなみに私が今まで宿泊した旅館の中では最も高くなります。それから昨年私が利用した「磐梯山温泉ホテル」は、上で紹介した「そのほかの個性的な宿泊施設」になりますが、1泊2食1人当たり2万3千円でした。全体的に星野リゾートの料金設定はやや高めですが、その中でも「星のや」がトップで、2番手が「界」になるでしょうか。当然旅行会社の募集ツアーとは違うので、こちらもサービス全般については、それなりのクォリティを期待します。また今回〝界  熱海〟を選んだ理由の一つに老舗旅館「蓬莱」を引き継いでいる旅館であることもあります。しかも本でも紹介されていた名女将に会えるかもしれないという期待もありました。

 

   そして〝界  熱海〟を利用した結果です。サービス全般のクォリティは、十分料金に見合うものでした。とりわけ私たちの夕食を担当していただいたTさんのおかげでこの旅行そのものがこの上なく充実し、貴重なものとなりました。極端な言い方をすればTさん一人が今回の旅行のサービスクォリティを決めてしまったといっていいでしょう。

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            【⬆︎ 対応していただいたTさん  】

 

   星野リゾートの社員さんは、磐梯山温泉ホテルを利用したときも感じたし、今度の「界  熱海」でもそうでしたが、皆さんみんな若いですね。今回夕食を担当していただいたTさんも数年勤めた大手都市銀行を退職して星野リゾートに入社した転職組で、入社して3年ほどになる20代の女性です。夕食は午後7時30分からでしたが、もちろんお酒を飲みながらということ、途中で夜のイベント「熱海芸妓の舞」があり、参加したかったので9時30分から10時まで夕食を中断し、部屋に戻ってまた夕食というか宴会を再開し、やっと宴を終えたのは夜11時を過ぎ、11時30分頃になろうとしていました。夜7時半から11時半まで、夜のイベントを挟んでの4時間、Tさんは終始明るい笑顔で対応してくれました。さすがにこんなに遅くまで対応していただいたことに申し訳なく思い、お詫びをするとともにTさんに「今日は私どものために残業をさせてしまいましたね?」と訊ねたら、「はい、でも残業代は会社から分単位でしっかりもらえるので大丈夫です」との返事。Tさんの明るい笑顔の返答に安堵すると同時に改めて星野リゾートに感心しました。星野のリゾートのことについて書いた「星野リゾートの教科書」という本があります。その本の中で経営に活用できる優れた本を紹介し、その本に書かれていることを経営に徹底して活かしてきたと星野社長が語っています。その中に1990年代にベストセラーになった「真実の瞬間」という当時スカンジナビア航空COO兼CEOのヤン・カールソン氏の書いた本があります。 その本の中で「顧客は、それぞれ一人の人間として扱われることを期待している。その期待に応えなければ、スカンジナビア航空は顧客から選ばれない。  ・・・・ ・1986年、1000万人の旅客一人一人が1度のの利用で平均5人の従業員と接し、その1回の応接時間は平均15秒だった。この15秒×5回×1000万人で顧客の脳裏にスカンジナビア航空の印象が刻みつけられたことになる」といっています。航空会社とリゾート運営の会社では全く異なりますが、Tさんが食事で実際直接対応していただいた時間はざっと2時間半位と思います。これを15秒を1単位とすると、15秒×600回になります。1人でこれだけTさんを独占してしまったことになります。少し度が過ぎたかもしれません。その点はTさんにお詫びいたします。しかしおかげでこちらの長時間拘束というわがままにも、最後まで笑顔で対応していただき、最高のときを過ごすことができました。そしてすばらしい私たちの旅の物語となりました。本当にありがとうごさまいました。

 

   改めてTさんの対応、ホスピタリティを振り返ってみましょう。

①最初から最後まで終始笑顔で対応してくれました。その笑顔はこちらまで伝染して嬉しくさせてしまう力がありました。

②コミュニケーション力があり、会話は途切れることなく広がりました。その要因にTさんの聞かれたことに誠心誠意応える姿勢があります。それこそコミュニケーションの基本中の基本でしょう。

③会話の中で人として前向きな向上心を感じました。それはこちらの気持ちを刺激してくれます。私は〝日本の観光〟に関心があり、昨年からブログも始めました。一方Tさんも星野リゾートという観光業に志を持って入社してきた人ですから話は当然弾みます。デービット・アトキンソンさんが最近出版した「世界一訪れたい日本のつくりかた」の本のことを紹介したら、Tさんは目をキラキラと目を輝かせ、「その本私も買って読みます」といいます。これにはこちらがうれしくなってしまいます。

   この夕食でのTさんの対応は、単なる良好なコミュニケーションのレベルを超えた人間関係が生まれたといっていいでしょう。そう、Tさんのファンになってしまいました。これからもずっとTさんのことを応援していくと思います。

 

   私は対応していただくスタッフの対応一つで全体の評価をしてしまいます。おそらく多くの人もそうでしょう。旅は自分の貴重な時間を使って、すばらしい自然に触れて癒され、知らなかった歴史や文化を発見して感動したり、さまざまな人と出会い、その生き方や習慣に触れて刺激され、自分に活力を与えてくれます。貴重な時間を使う以上、旅は1泊2日であっても私の中の物語としたいという期待があります。その期待が叶わなかったとき、期待が大きいゆえに大きく失望します。冷静に考えれば評価は5段階評価の4位あったとしても失望という感情の要素が勝り、感情で評価を1にまでしてしまうことはありえる話です。それからそのホテル、旅館、リゾート施設を5段階で評価するといっても、厳密に評価することは私にはできません。私は観光に関心があるといってもその道のプロではありません。プロに必要なさまざま施設のリサーチは全くやっていないし、5つ星ホテルも最高級といわれる老舗旅館や料亭も利用したことがありません。つまり現在ある最高のクォリティそのもののレベルがわからない訳で、それは結局評価〝5〟の基準がわからないということでもあります。従って私の5段階評価は〝多分、なんとなくこんなもんだろう〟という程度のもと言えるでしょう。基準があいまいなので、当然感情に左右されることは正直あります。そして多くの人もそうだろうと思います。私は旅のプロでも食通でもありません。63歳の私がこれからその道をめざすには少し遅すぎます。でも日本の観光業の発展に関心があるので、経済的に許される範囲内で旅を続けます。そもそも私の旅のきっかけになった理由を整理すると、

(1)世界の人に日本の文化、社会についてもっと知ってほしい。とりわけそう思う理由の一つに、サミュエル・ハンチントンが「文明の衝突」の中で指摘している『最も重要な孤立国は、日本である』という内容です。〝黒川温泉に学ぼう〟の第5回《最終回》でも紹介しましたが、もう一度掲載します。

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(2)その手段として最適なものは海外からより多くの人に観光で訪れてもうこと。しかし現状はインバウンド数はまだ少ない。毎年増えてはいるものの同じアジアのタイなどに比べその人数、バランスで(日本の場合中国、韓国、台湾の3ヶ国に偏っている)劣っています。

(3)その要因を考えると、一つはこれまでの団体客を主にした観光施設や海水浴場やスキー場に代表される時代遅れの貧弱なリゾート施設の現状から脱皮できていないこと。二つは街並みの景観向上の視点が欠如し、絵になる景観が少ないこと。三つはデービット・アトキンソンさんの指摘するように、日本の伝統文化を守もっていくため、必要な保全を行い、伝えていく努力が欠如していること、四つがそもそもインバウンド客に対する言語対応などのソフト対応が遅れていることなどがあります。

(4)そしてさらにその要因を深く考えれば、日本はつい最近まで大多数の国民が質素で貧しさと同居しており、一部の人を除けば〝景観〟も〝リゾート〟いう発想もほぼ皆無だったこと。また独自の文明と言葉と1億人を超える人口を持つ日本は外国との交流の必要性に迫られなかったことがあります。

 

    しかしこれからは世界にもっと目を向ける必要が生まれています。各国がインバウンドの集客を競って力を入れています。ぼやぼやしていたら他国にも先を越されてしまいます。そのため、日本はこれから海外の事情も学びながら一つ一つ確実に、日本の文化・文明を伝えていく努力をしていくことです。それは日本人自身の意識も含め(景観に対する考え方、意識など)変えていく覚悟を持ち、行動していくしかないのです。

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   私の旅行はそんな問題意識を持ち、日本の観光業を自分の感性で現状把握する目的をもった旅です。自分で感じ、把握した中味についてはブログにまとめ、発信していきたい。そのことを残りの人生のライフワークにしていきたいと思っています。そんな決して観光のプロではない私の評価ですが、Tさんには5段階の最高評価〝5〟をつけたいと思います。

 

   それから今回チェックアウトのとき、老舗旅館「蓬莱」から女将を続けている〝古谷さん〟に会えたことも本当に幸運でした。私の物語の宝物として、大切に一生残しておきます。

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    私にとってこれまでの旅行の中で最も高額といっていい料金でしたが、全体として満足できるものでした。とりわけすでに紹介したTさんのホスピタリティの質に、そして感性がぴったりフィットした人だったので(私の方だけがそう思ったのかもしれないですが)、実に楽しく感動をたくさんいただきました。でも、〝界 熱海〟の施設についていくつか気になった点もあったので、その点を少し紹介します。

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   界 熱海の施設は、海に面した斜面の立地にあり、客室全室と二つの大浴場全てがオーシャン・ビューの構造になっていて、それが一つの売りになっています。ただ大浴場とその近くにある青海テラス(湯あがり処)から見る海の見える景観は今一つでした。何が今一つだったのかというと、敷地内の樹木、緑です。おそらく施設の周りを囲うように大きな大木があったのでしょう。樹木もあまりに大きくなり過ぎれば、売りであるオーシャン・ビューを実現できなくなるし、台風などの強風で倒木の恐れがあって危険でもあります。そのためと思いますが、周りにあった大木を切り倒し、その切り株があちらこちらに残っています。これが山林の樹木を何本も切り倒したばかりの山のようで、いかにも〝人手をかけました〟といっているような不自然さがあり、海を見ても癒やしに繋がらない景観になってしまっているのです。もちろん何年かすればまた切り株から新しい芽が育って、樹木で覆われるようになるでしょう。しかしそれでは数年の間今一つ癒されないオーシャン・ビューの景観に利用者は我慢しなければなりません。

   熊本県の黒川温泉を再生させた後藤哲也さんなら、おそらくそんな状態はつくらなかったでしょう。ではどうしたか。大木を切り倒したあとは、すぐにそのその土地に合った雑木を組み合わせて植樹し、海に合わせた景観にしていたと思います。江戸時代後期から老舗旅館蓬莱としての伝統を受け継ぐ〝界 熱海〟なら、当然そのレベルの配慮はしてほしいと思いました。景観とはただ海が一望できればいいというものではありません。海と海を見る位置周辺の景観とのバランスこそ大事です。

 

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   食事と並んで旅館を代表するものといえばもちろん大浴場です。大浴場には2種類あって男性、女性で朝夕使える浴場が異なることは紹介しました。そして、朝使用した大浴場「走り湯」は十分満足できるものでした。しかし夕方使用した大浴場「古々比の瀧」は、思わず「あれ、これは仮設の浴場?」と思ってしまいました。先ず入って正面奥の白いシートと屋根を支える鉄骨の柱が目に入ります。そして天井はジャバラ式の鉄板のよううに見え、仮設の浴場施設のように見えてしまいます。

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       【⬆︎ 界 熱海   大浴場「古々比の瀧」】

 この大浴場をデザインしたのは建築家の隈研吾氏で、確かに世界でも活躍していて経歴としては申し分ないのかもしれません。最近は木材をふんだんに使ったデザイン構造の建物が多く、その点〝木〟という自然の素材を使うことで無機質な構造の建物に比べやすらぎを感じるでしょう。しかしそこは先端にいる建築家です。デザインにどうしても前衛的なものを感じます。公立の美術館とか公会堂ならともかく、この大浴場の構造は老舗旅館に相応しいとは思いません。有名な建築家だから許されるというものでもないと思います。そう感じたのは私だけかもしれませんが、昨年黒川温泉の山みずきで感じたような正に〝自然の中にいる〟という感動はありませんでした。

   もしかしたら〝全面露天風呂〟と案内にあるのに、風呂全部を覆うように屋根があるということは、雨の日に利用できないというお客様の声で後から屋根がついたのかもしれません。露天風呂といっても、室内風呂と屋外の露天風呂の二つが隣接してあることが必要でしょう。下の写真は私が昨年黒川温泉で入った旅館〝山みずき〟と〝湯本荘〟の露天風呂です。海がないのでもちろんオーシャン・ビューではありません。しかも正直なところ周りの景観に絶景はありません。絶景がないから植樹によって平凡な風景を隠しているともいえるし、植樹によって絶景を創っているともいえます。とにかく風呂の満足度は圧倒的に黒川温泉の方が高いと私は感じました。黒川温泉は本当に自然の中にある風呂で癒される感じがしました。一方界 熱海の露天風呂「古々比の瀧」はあまり自然の中にいる感じがせず、ゆっくり風呂に浸かっていたいという気はおこりませんでした。オーシャン・ビューの絶景が見えることに奢ってしまってはいけません。前段でも述べたように、海と海を見る位置周辺の景観とのバランスが大切だと思います。

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【⬆︎(上)黒川温泉 山みずき (下)同 湯本荘 2016年7月】

 

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    これは「界 熱海」の問題というより大半は熱海市という行政の問題かもしれません。界 熱海で1泊して翌日のことです。旅館(界 熱海)の周りを散策してみました。結論から先に言いましょう。少し歩いてみてこれはもう散策するに値しないと思いました。旅館の近くを通る幹線道路(国道135号線)は1mもないような歩道があるだけで、他に道らしい道もありません。仕方なく旅館近くを通る国道を車に注意しながら歩いてみたのですが、正直なところ癒されるような景観ではありませんでした。そもそも国道を散策する前提で誰も考えていないので、日本のどこにでもあるような風景が目に入ってくるだけです。

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  山側を見ると10階を超えるよつなマンションが急斜面を造成し、海側に敷地いっぱいに建てられているので圧迫感を感じます。熱海は温泉地として栄えただけでなく、東京にも新幹線で1時間未満でいける場所にあり、斜面を利用すれば、全室オーシャン・ビューのリゾートマンションが可能ということで、熱海駅周辺には至るところにマンションが建ち並んでいます。よる夜景として見る分にはいいですが、日中見るとほとんどの建物はただの箱物ビルで、風格も感じられず景観としては良くありません。反対側の国道の坂を下っても、斜面を削って造成した道なので山側は高い壁、海側は急斜面に竹やぶ、背の高い茅類、雑木があり、その中から景観の視点を欠いた旅館などの建物が見えてきます。しばらく歩いても癒されるような気分にはなりません。それならと思い、海岸に出ようとしても海岸は砂浜がない急斜面で、海岸ぎりぎりに道路(熱海海岸自動車道)があり、海側に歩道もないので海岸沿いを散策することもできません。

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    「界  熱海」は、館内のハード、ソフトをいくら頑張っても残念ですが周りの景観、環境がこれではインターナショナルで評価される旅館になるのは難しいと感じます。取り分け欧米人には快適な散策環境が必須だからです。もちろんこれは「界  熱海」の問題というより熱海全体の問題であり課題です。その熱海市には2007年、静岡県内でいち早く制定された「熱海市景観計画」があります。ただ計画に基づいて整備されたと思うのは、熱海駅の南西にあり、重点景観形成地区に指定されたサンビーチ周辺の東海岸町地区くらいで、「界  熱海」のある伊豆山地区では、幹線道路沿いの景観整備等ほとんど手つかずの状態に感じます。もちろん私が昨年から紹介してきた黒川温泉とは規模が比較にならないほど大きいので、景観を変えるといっても簡単ではありません。日本には黒川温泉のような20数軒の温泉地での景観リニューアルはあっても、熱海市レベルの規模の行政単位で全面リニューアルしたところはないでしょう。莫大な予算と住民の合意形成を得てすすめるには半端な覚悟ではできないのは確かだと思います。ただそれができたなら一躍世界に誇れる温泉地、観光地になることができると思います。潜在的に素晴らしい景観になる要素を持っています。夜景だけなら世界に誇れるのです。それを日中見ても世界に誇れる景観に変えるのです。計画だけなら誰でも作れます。問題は継続的なアクションそのものです。一過性ではダメです。30年ほどのスパンで考え、毎年着実に実施していくのです。熱海市景観計画の重要景観形成地区の東海岸町地区だけでなく、計画にある11の類型別景観のそれぞれに目指す景観の絵(または縮尺模型)を明確にし、すすめるのです。それは徹底して統一感を持たせます。統一感のある景観の絵があれば、それが目指す視覚化された状態(景観)の目標になります。景観計画と基本的に内容は同じですが、要点は①全ての看板の整備(ルールを決め統一感を持たせる。まず思い切って統一感のない看板等は撤去する)、②建物外観整備(建物の外壁もルールを決め統一感を持たせる)、③雑木の植樹、④遊歩道の整備、⑤電線の地中化等です。①から④はぜひ黒川温泉に学んでほしい。住民のコンセンサスを得て行うのは大変ですが、そろそろ日本人自身も景観意識を身につけなければいけないいけない時期にきており、日本人の民度が問われているといっていいでしょう。

 

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    私がこれから星野リゾートの施設を利用してみたいのは、星野リゾート社長「星野佳路さん」のことをもっと深く知りたいからです。星野社長の思いが、実際の旅館やホテルなどの施設にどう反映して運用されているのか、星野社長の一つ一つの作品をこの目で確かめてみたいからです。できれば毎月でも星野リゾートの施設を利用してみたいくらいですが、とてもそんな経済的余裕はありません。せいぜい年2回が限度といっていいでしょう。しかし星野社長のことを知るにはもう一つの方法があります。それは星野リゾートと星野社長のことを紹介した〝本〟から学ぶということがあります。そして私が最初に星野佳路社長のことを紹介した本で読んだのが、「星野リゾートの教科書」という本です。

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    星野社長の考え方は非常にシンプルで分かりやすいのです。この本の冒頭のラインマーカーで線を引いた部分です。その部分を改めて紹介しましょう。

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    そしてこの本の中でどいうケースの場合、どういう本を読んで経営にどう生かしたかが具体的に書かれているのです。いわば経営の手の内をすべて公にしているのです。この本の冒頭で教科書の生かしたをステップごとていねいに説明しています。そのステップごとの内容は、

 

《ステップ1》本を探す

〝書店に1冊しかないような古典的な本ほど役に立つ〟

⚫︎学問と実践を行き来した研究者の本を探す

《ステップ2》読む

〝1行ずつ理解し、分からない部分を残さず、何度でも読む〟

⚫︎「自分への宿題」を課して持ち歩き熟読する

《ステップ3》実践する

〝理論をつまみ食いしないで、100%教科書通りにやってみる〟

⚫︎「教科書通り」なら苦しいときも耐えられる

 

    と、ステップごとに分かりやすく説明してくれています。とりわけ星野社長が偉いと思うのは《ステップ3》の「100%教科書通りにやってみる」という点です。世の中には「論語読みの論語知らず」で、読んで知ってはいるし、つまみ食いで一部実践をしているけれど、100%実践しているという人は極めて少ないと思います。でも100%実践しているから実践した結果ははっきりと検証でき、次のステップの仮説、課題の明確化につながります。私自身の反省を込めて言えば、前の職場(コープ=生活協同組合)の店長時代(20年以上前になるが)、毎月の月度報告書は予算未達成の場合、実践した課題の検証結果に基づく報告書ではなく、ただ未達成の弁明書に終始していたところがありました。また仕事の実践の場面でも、課題を現場で徹底させる点で弱さがありました。そんな頃すでにアメリカのセブンイレブンを傘下に収めるなど、めざましい活躍を見せていた日本セブンイレブン会長でイトーヨーカ堂社長(後にセブン&i会長)の鈴木敏文氏の当時言葉が心に突き刺さりました。それは、

 

〝せんじつめると、ビジネスとは「変化への対応と基本の徹底」ということになる〟

 

   「つまり徹底して実践するから結果の検証ができる。検証の結果からお客様のニーズの変化を読み取ることができ、その変化に合わせて次の仮説を立てることにつながる。そしてその変化に対応することは、過去の成功体験だけで対応することはできない。私たち自身が新たな仕組みや別の方法でアプローチするなど、自らが常に変わる必要がある。したがって我々の仕事は〝変化対応業〟と言うこともできる」と言っていました。それから私は〝徹底〟ということにこだわるようになりました。そんな私の事例など取るに足りませんが、鈴木さん同様に〝徹底すること〟にこだわる星野さんは、結果の検証から適切な仮説、課題を導き出すことができる人だと思います。

 

   さて、この本の中で紹介している本は30冊になります。そのうち私が読んだ本はたった3冊(「真実の瞬間」と「エクセレント・カンパニー」「代表的日本人」)です。星野佳路社員をより深く知るため、これから本を図書館で借りるか購入して読むつもりです。残り27冊、内1冊は英語の原語の本なので読むのは難しいため、実質26冊ということになります。これを片っぱしから手に入れて読破するつもりです。それで、さっそく手に入れたのがマイケル・E・ポーターの「競争の戦略」です。アマゾンで中古本でしたが、それでも送料込みで4177円。ページ数はざっと480頁です。相当気合を入れて読んでも26冊すべて読むには数年はかかると思います。ただ読んだ内容は星野リゾートの施設と合わせて数年続ける予定のシリーズで紹介していきます。

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    今度星野リゾートを利用するのは12月の予定です。このシリーズの第2回の投稿はそれ以降となります。